Googleは医療アシスタントの開発でマイクロソフトに対抗

ウォールストリート・ジャーナルはGoogleの医療AIに対する取り組みについての記事を公開しています。

Googleは長らく検索エンジンを提供してきましたが、最近ではチャットボットを医療データセットでファインチューニングを行うことで医療分野に特化したAIを開発しています。

LLMの医療分野における活用としては、2022年の11月にはChatGPTが出現した後、患者のケアに関する実験が始まりつつあります。

Med-PaLM2は医師国家資格の問題集から学習

Googleは医師国家資格の問題集から学習を行ったLLMであるMed-PaLM2と呼ばれる医療チャットボットを開発し、医療問題に関する対話を行う能力が高いとしています。
Googleが発表した研究によると、Med-PaLM2は、医療に関する質問に対する応答を生成したり、文書の要約や健康データの整理などのタスクを実行するために使用することができます。

GoogleはAlphabetの一部門であり、過去には病院とのパートナーシップを通じて、患者のヘルスデータをどのように扱っているかについて注目を浴びてきました。

医療分野においてAIは特定領域においては活用が行われており、例えば患者の心電図から心臓の問題を予測するなどが挙げられます。
しかし生成AIは、医者が推奨しないような回答を行うことも懸念されます。

満足な医療サービスを受けられない人向けの仮想アシスタントを開発

GoogleとMicrosoftの両社は、企業の文書によれば、特にリソースが限られた地域で、世界中の患者からの医療に関する質問に答える仮想アシスタントを開発するという大きな野望にも関心を示しています。

Googleは4月に、内部のメールで医療アシスタントとして信頼できるAIモデルは、「医師へのアクセスが限られた国々で非常に価値がある」とプロジェクトに関与する研究者を引用して述べました。

Googleによる取り組みの一方で、Microsoftは2023年4月にはChatGPTの背後にあるアルゴリズムを使用して患者へのメッセージを自動的に作成するツールを構築するために、ヘルスケア系ソフトウェア企業のEpicと提携しました。
また、MicrosoftとOpenAIは3月に発表した論文で、ChatGPTの背後にあるGPT-4プログラムなどのアルゴリズムは、「情報提供、コミュニケーション、スクリーニング、決定支援を手が届かない地域で提供するために活用できる」と述べました。

Med-PaLM 2の開発に関与したGoogleの研究ディレクター、Greg Corradoは、同社はまだこの技術を使用した製品の開発の初期段階にあり、顧客と協力して彼らのニーズを理解する作業を行っていると述べました。

アナリストによる分析

記事内で患者ケアについての直接的なビジネスインパクトについては記載がありませんが、医療分野におけるすべての応用のベースとなるモデルの構築が目的であることが予想されます。

生成AIによるセカンドオピニオンの提供は医療以外の分野においても可能性がある

医療では特にセカンドオピニオンという形で、複数の専門家の意見を参考にすることがありますが、信頼できるモデルが構築できた場合はこの一つに生成AIが入り込んでくることが予想されます(ファーストオピニオンとしてすでにChatGPTに相談している人も多いかもしれません)。
医療に限らずセカンドオピニオンのニーズは想定され、例えば税務相談や法律相談なども提供の余地があります。

また医師が専門分野違いなどの影響で簡単には解決できないような事例に直面した場合に、医師のための医療相談チャットボットなど専門家向けにサービスを提供できる可能性もあります。
この場合はPerplexity.aiのように引用を紐づけながら回答を行うことでユーザビリティを格段に向上させることもできます。

患者による利活用とデータセットにギャップ

医師国家資格試験という専門のデータセットで学習するため、一般人に対してどれだけ適応できるのかは疑問が残ります。
特に専門家であれば生成AIから回答を引き出すための適切な質問を行うことができますが、一般人が使用する場合は回答のための情報が不足していることが多く、生成AIが深掘り質問を行うことで情報を適切に引き出し、その上で回答を行うことが求められます。
医師国家資格試験のデータセットではこのギャップを埋めることは難しいことが予想されるため、どのようなアプローチでこの課題を達成するのかに関心が寄せられるでしょう。

参考文献

https://www.wsj.com/articles/in-battle-with-microsoft-google-bets-on-medical-ai-program-to-crack-healthcare-industry-bb7c2db8

https://cloud.google.com/blog/topics/healthcare-life-sciences/sharing-google-med-palm-2-medical-large-language-model?hl=en

この記事を書いた人
自然言語処理AIを専門とした技術コンサルサービスを提供しています。
医療、法律、金融分野におけるクライアント様の新規事業の創出を手掛けてきた経験から執筆を行います。

【所属】
株式会社サイシキ
言語処理学会(正会員)
人工知能学会(正会員)
日本メディカルAI学会(正会員)
早稲田大学人間科学学術院 招聘研究員