大手戦略コンサルティングファームであるマッキンゼーが、自社情報に効率的にアクセスできる生成AIである「Lilli」を開発していることが公開され、話題になっています。
知識労働を提供するコンサル業界における生成AIの活用方法については以前から注目されており、この事例を参考にすることでどのような課題の解決が必要とされているのか、そして有効なのかを世界中の人が注目しています。
同社のシニアパートナーであるエリック・ロス氏はVentureBeatへのインタビューでLiliiについての情報を公開しています。
マッキンゼーは3万の従業員がいますが、その約半数がLilliをすでに活用しています。
Lilliはマッキンゼーの従業員向けのチャットAIであり、データ分析と人材のアサインについて大きく効率化できます。
10万以上のドキュメントやインタビューの書き起こし、インサイト、データ、プロジェクトの計画を提供し、さらにプロジェクトに最適な同社内のメンバーを推薦します。
つまり、マッキンゼーの持つ全ての知識に対して回答を求めることができます。
活用しているメンバーは調査やスケジュール構築作業にかける時間を数週間から数時間に、または他のタスクにおいても数時間を数分まで短縮しています。
過去2週間だけで、Lilliは50,000の質問に答え、ユーザーの66%が週に複数回それを利用しています。
Liliiのインターフェースには、ユーザーが切り替えることができる2つのタブが含まれています。
一つは、大規模言語モデル(LLM)からデータを取得する「GenAI Chat」、もう一つは、マッキンゼーの10万以上のドキュメント、書き起こし、プレゼンテーションなどのデータベースから情報を取得する「Client Capabilities」です。
また、LLMにはCohereやAzure上のOpenAIのモデルなど広く検討しています。
Lilliからの各応答の下には「Sources」という別セクションが準備され、モデルがその応答を取得した具体的なページへのリンクやページ番号を提供します。
マッキンゼーのメンバーがLiliiを活用すると、クライアントの競合他社に関する初期調査から、クライアントが特定のプロジェクトを実施する方法のスケジュール案まで作成できます。
VentureBeatのLilliのデモでは、Lilliは大手のeコマース小売業者に関するマッキンゼー内の専門家人材リストを提供できるだけでなく、次の10年間のアメリカのクリーンエネルギーの展望や、10週間での新しいエネルギー施設の建設計画も提供できました。
マッキンゼーは同社内におけるすべての従業員に利用を拡大することを目指している一方で、マッキンゼーのクライアントや他の企業全体に向けた外部向けの製品にすることにも必ずしも否定しているわけではないようです。
コンサル業界における特徴として、縦割りに一本化された組織単位で動くのではなく、プロジェクトが最初に決定された後に関連するメンバーが収集され、チームが結成される点が挙げられます(マトリクス型組織)。
このメンバーのアサインを効率化するには、誰がどのようなスキルや業界における専門知識を持っており経験してきたのかをデータベース化し、メンバーの誰もが簡単にアクセスできる必要があります。
Lilliでは社内の人事情報に簡単にアクセスできる点に大きなメリットがあります。
Liliiの他の機能では、データ分析として過去のプロジェクトデータを参考にしてスケジュール構築の立案サポートなどを行うことが挙げられていましたが、この機能にフォーカスした場合の性能については不明です。
同社の競合にあたるデロイトも類似の取り組みを行っていますが、過去のインサイトの転用やスケジュール構築などのタスクは人間と代替することは困難と主張する資料を公開しています。
一方で、まだLiliiについてはMVP(最小のプロダクト)段階なため、今後の成果の公開に期待されます。
生成AIを活用して自社情報にアクセスできるようにする試みは2023年になってから急速に増えています。
日本においても例えばベネッセHDが自社専用のAIを開発していることが大きく知られています。
ChatGPTベースの場合は、マイクロソフトAzureの「on your data」を活用することで自社資料にアクセスし、質問応答を行うチャットAIの開発を高速に行うことができるようになっています。
その一方で社内情報を扱う生成AIの活用のためには以下のような要件が発生します。
また企業毎に要件が異なることも大いにあり、なかなか自社AIの開発が前進しないこともよくあります。
このようなケースでは、AI開発に慣れている開発企業に導入コンサルティングを依頼することもオススメできます。