商品選びの新基準、AIによる持続可能性スコアリング

家庭の消費行動は全世界の温室効果ガスの排出や土地・材料・水利用の多くを占めており、環境への影響が懸念されています。オンラインショッピングの増加により、この懸念は今後より大きくなると予測されます。

Linら(ミシガン大学, スイス連邦工科大学チューリヒ, アムステルダム大学)による研究では、オンラインショッピングにおける消費者製品の持続可能性スコア(どの程度環境に配慮しているかを算出したもの)をAIによって予測することに取り組んでいます。現状、消費者が環境に良い製品を選ぶ動きが強まる中、その選択の基準となる情報が不足しています。しかし、この研究によれば、AIがこの問題の解決策を提供することができるかもしれません。

概要

家庭の消費行動は全世界の温室効果ガスの排出や土地・材料・水利用の多くを占めており、環境への影響が懸念されています。オンラインショッピングの増加により、この懸念は今後より大きくなると予測されます。

この研究では、オンラインショッピングにおける消費者製品の持続可能性スコア(どの程度環境に配慮しているかを算出したもの)をAIによって予測することに取り組んでいます。現状、消費者が環境に良い製品を選ぶ動きが強まる中、その選択の基準となる情報が不足しています。しかし、この研究によれば、AIがこの問題の解決策を提供することができるかもしれません。

消費者はオンラインで購入する際に環境に配慮しているか?

持続可能性に対する懸念が高まる一方で、必ずしも消費者が持続可能性に対して配慮しながらオンラインショッピングをしているとは限りません。そのため、消費者レビューを分析することで、消費者がオンラインショッピングの際に持続可能性を意識しているかを調査する必要がありました。

具体的には、まずは商品ページから取得したデータ(68,390件)からサンプリングを行います。サンプリングした1,000件の商品ページに対して、「レビューに持続可能性に関連する用語が含まれているか」をアノテーションしました。次に、1,000件のデータを使用し、「レビューに持続可能性に関連する用語が含まれているかどうか」を予測するモデルを構築しました。最後に、構築したモデルを用いて、全68,390件のデータに対しても予測を行いました。

その結果、約15%の消費者レビューが持続可能性に関連する可能性があると予測されました。このことから、消費者はある程度持続可能性に配慮しながらオンラインショッピングをしていると結論づけます。

消費者レビューを使用することで、グリーンウォッシングに対処できるか?

グリーンウォッシングとは、「企業等が、実態を伴わないのに、あたかも環境に配慮した取組をしているように見せかけること」です。グリーンウォッシングという問題があるように、商品情報だけでは、環境にやさしい商品を特定することが難しくなっています。そこでこの研究では、消費者レビューを使用することで、この問題に対処しようとしていました。消費者レビューは商品に対する否定的なものもあるため、商品を良いように見せようとするグリーンウォッシングへの有用な対抗策と考えられます。

実際に、否定的な消費者レビューの割合と持続可能性スコアの関係を調べたところ、否定的な消費者レビューの割合が増加するほど、持続可能性スコアが低下することがわかりました。このことから、消費者レビューは持続可能性スコアと関連していることが示唆され、グリーンウォッシングの有効な対応策と考えられます。

企業の説明と消費者のレビューをもとに、持続可能性スコアを予測できるか?

最後にこの研究では、商品情報・消費者レビュー・カテゴリ情報をもとに、持続可能性スコアの予測に取り組んでいました。その結果、この研究で提案されたモデルは古典的な機械学習手法に比べて高い精度で予測することが可能であることがわかりました。

具体的な提案手法は、まず商品説明と消費者レビューをそれぞれ独立した大規模言語モデルに入力し、出力された埋め込み表現をconcatし、Dropout層と全結合層を通すことでスコアを算出するものでした。

アナリストによる分析

ひらめき

本論文により、AIを用いて消費者製品の持続可能性を効率的に評価する手法が提案されました。この手法は、企業のCSR活動やサステナビリティレポートの自動評価にも応用可能であると考えられます。多くの企業が持続可能性に関する取り組みを行っている中、その取り組みの真実性や実効性を評価するための客観的な基準やツールが求められています。AIの力を活用することで、企業のサステナビリティ活動の品質や実効性を迅速に評価し、その結果を公開することが可能となると考えられます。これにより、投資家や消費者が企業のサステナビリティ活動を正確に評価し、その結果を購入や投資の判断に活用することが容易となります。

また、持続可能性の高い製品やサービスを提供する企業は、その取り組みを消費者や投資家に効果的にアピールすることができ、ブランド価値の向上や新しいビジネスチャンスの創出につながると考えられます。

参考文献

この記事を書いた人
自然言語処理の研究開発をしている大学院生です。
大手シンクタンクのインターンに参加した経験から金融分野にも興味が広がっています。

【所属】
早稲田大学 人間科学研究科

【発表した論文】
・システム発話の感情分類による制御を行ったマルチモーダル対話システム(第一著者)
・語用論的対話方策を使用するルールベースの対話システム(第一著者)
・保育現場での実用に向けたテキストベースファシリテーション対話システムの開発(第一著者)
・相談者の期待の種類を考慮する恋愛相談対話システムの検討(第二著者)
・深掘り質問を活用したカタカナ語学習支援対話システム(第二著者)